午後からは会場の大阪ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターで市民講座を受講しました。
内容は「けが、キズの治し方」をメインテーマに3つの講演からなりました。
講演1は神戸大学形成外科教授の寺師 浩人先生「なぜ、糖尿病患者さんの足(脚)が大切なのか」
講演2は埼玉医科大学形成外科・美容外科教授の市岡 滋先生「けが、やけどをした時は」
講演3は日本医科大学形成外科教授の小川 令先生「キズはどこまできれいに治せるか?」でした。
●講演1は子どもとは直接関係ありませんが、糖尿病で末梢性の神経障害や血行障害から壊死に気づかず、足の切断となってしまうケースについてでした。高齢者で膝上を切断となれば術後は寝たきりになってしまうため、早期に足の壊死や潰瘍に気づき適切な処置が望まれます。足は歩行運動により大きな荷重が加わるため安静にしづらく治癒を遅らせてしまうことがあるといいます。クッション材を用いて傷口に負担がかからないようにすることが重要とのことでした。
●講演2では、まず炎症性色素沈着についてお話がありました。これは何らかの原因により皮膚が炎症を起こし、治まった後、色素が残ってしまった状態のことを指します。炎症とは何か考えます。炎症とは、何らかの刺激を受けたとき身体に現れる反応のことです。炎症の4徴としては、発赤、腫脹、発熱、疼痛があります。これに対して応急処置基本はRICEだということでした。R:Rest安静、I:Ice冷却、C:Compression圧迫、E:Elevation挙上の略です。まずは安静にして、患部を冷やし、圧迫して心臓よりも高く挙上することだといいます。これは口腔の炎症でも同じですね。口腔の炎症のときは頭部を気持ち挙げたり、上半身を起こした方が楽です。
やけどの場合もRICEは同じですが、家庭で対症していいのはⅡ度の浅めのものまでということでした。やけどの分類では、Ⅰ度は表皮に限局したもの。Ⅱ度は真皮に到達したもの。Ⅱ度の浅め(浅達性Ⅱ度熱傷)とは、真皮には到達しているが毛根より浅いもの。Ⅱ度の深め(深達性Ⅱ度熱傷)とは真皮の毛根より深いもの。Ⅲ度は皮下組織を含む全層壊死です。Ⅱ度のやけどだと水ぶくれになりますが、浅めのものであれば肉芽組織の上に毛根由来の表皮組織が遊走して治癒します。色素沈着はしますが、痕は残りません。これは組織が再生regenerationしたためです。これに対してⅡ度の深め(深達性Ⅱ度熱傷)以上のものでは、組織は再生せず修復repairされ瘢痕化あるいはケロイドになります。
けがした時は、2~3分圧迫して止血しなければ医療機関受診した方がいいということでした。また動物に噛まれた場合は例外なく受診してください。咬創の多くは感染しているからです。昔、傷は赤チンを塗って乾かしていましたが、今は湿潤療法が一般的です。湿潤療法は1962年にWinter博士が発表した実験結果に基づいています。博士は豚に擦り傷をつくり空気にさらして乾燥させると湿潤状態より2倍治癒にかかると報告しました。現在ではキズパワーパッドなど市販品で湿潤療法ができるようになりました。擦過創の場合、異物は徹底的に取る必要があります。異物が皮膚内に残ると外傷性刺青となります。その除去にはレーザー治療が必要になります。
やけどの場合は流水で15分以上冷やします。水疱ができたら注射針で内容物を抜いて被膜は残します。被膜が湿潤状態を保ってくれます。
咬創は前述のとおり感染源となります。狂犬病の発生は本邦では1957年以降ありません。人による咬創、自身で噛んでしまったなどの場合、創が感染する割合は50%ということです。
RICEの原則にあてはまらないものがあります。例外は、凍傷とエイに刺された場合です。凍傷の場合は40~42度にあたためます。エイの場合も毒が分解される45度まで加温します。
傷痕をしみにしないためには、日光にあてないことが大切です。日焼けには2種類あり、紫外線により直後にみられるサンバーンSunburn(強い赤み)と数日後にみられるサンタンSuntan(色素沈着)に分けられます。
●講演3では、まず形成外科という学問が患者さんのQOL(生活の質)を高める学問だという説明がありました。生体肝移植を受けると腹部にメルセデス瘢痕という傷痕が残ります。生命の危機ですから傷痕は二の次ということなのでしょうが、傷痕を目立たなくしていくのが形成外科であるということです。
スカーレスウンドヒーリングScar less wound healingいわゆる傷痕のない創傷治癒は理想ですが、現実にはレススカーウンドヒーリングLess scar wound healing傷痕の少ない創傷治癒が治療の目標になります。傷ができると瘢痕組織というボンドにより傷口がくっつき修復されます。その瘢痕組織の大きさにより正常治癒、肥厚性瘢痕、ケロイドなどと呼ばれます。
肥厚性瘢痕やケロイドはボンドである瘢痕組織が余剰ではみ出した状態です。肥厚性瘢痕は時間をかけて余剰な繊維組織が吸収されて落ち着いていきますが、ケロイドは肥厚性瘢痕のように時間とともによくなることはなく傷口を越えて組織が盛り上がり増え続けます。
ケロイドは傷口が引っ張られているところで生じます。ケロイドの治療の90%は圧迫療法、ステロイドのテープ、軟膏や注射、放射線(電子線)治療で改善します。基本的に炎症を鎮める治療といってよいでしょう。
10%が手術による修復処置になります。手術ではあえて大きく切開を入れたりすることで、傷口への張力を減らして術後の瘢痕を目立たなくします。これらの多くは保険治療で受けられるそうです。臨床の現場では肥厚性瘢痕とケロイドの区別は厳密ではないようです。ただし治療には長期間(1~2年)かけて目立たなくしていくという感じでした。ケロイドのリスクを高めるものとして高血圧、妊娠、女性ホルモン、成長期にある若年者、人種(黒人など南方系の人はなりやすい)、しわを横切るような傷などです。若年者では予防接種の痕やピアスの穴などがケロイドになっている例が紹介されていました。
小児歯科の私の立場では、顔面にできた傷にさらに切開を入れて目立たなくするということは経験もないのでできません。やっぱり専門の先生にお願いしたいところですね。
最後に、詳しく創傷治療を知りたい方へ下記のリンク先を訪ねてみてください。
NPO法人創傷治癒センターhttp://www.woundhealing-center.jp/
Dr.夏井の新しい創傷治療 http://www.wound-treatment.jp/
二子玉川ステーションビル矯正・歯科
髙見澤 豊