翌日は、朝から学会です。
一般演題にも興味深いものや処置法が適切かと疑問に思うものなどさまざまでしたが、ブログでは特別講演について書きたいと思います。
特別講演は新潟大学医学部小児科教授の齋藤昭彦先生によるもので、演題は「小児における予防接種の効果と恩恵」です。
私の知り合いにHPVワクチンの副反応で苦しんでいる方がいるので、私個人は講演内容をすべて肯定するわけではありません。
日本では2008~2015年にかけて14種類のワクチンが導入され、うち9種類が海外製ワクチンです。使用されるワクチンの種類が大幅に増えたことで環境が海外並みに整ったということでした。
ワクチンで予防できる病気をVPD(Vaccine=ワクチンPreventable=予防可能なDiseases=病気)といいます。
VPDにはB型肝炎、破傷風、おたふく風邪、ロタウイルス感染症、百日咳、水痘(水ぼうそう)、ヒブ感染症、ポリオ、日本脳炎、肺炎球菌感染症、麻疹(はしか)、インフルエンザ、ジフテリア、風疹、ヒトパピローマウイルス感染症があります。
B型肝炎のワクチンは以前まで親がキャリアの場合のみ接種していましたが、親がキャリアでない場合でも子どもの感染例があることから、すべての子どもが予防接種することになりました。また、ロタウィルスのワクチンも新たに導入されたものの1つです。
ワクチンの役割としては、個人予防と集団予防(集団免疫)があります。
個人がワクチン接種により病気にかからないだけでなく、接種者が増えることで未接種の人も病気にかかりにくくなるということです。
天然痘(種痘)は、ワクチンにより人類が初めて根絶した感染症です。
このほかにもポリオもほぼ根絶に近い状態だが、生ワクチンによりポリオを発症してしまう人がいるため、根絶に至らないとのこと(現在日本では不活性ワクチン使用していますので、ワクチン接種によるポリオ発症はありません)。
麻疹も2015年に国内では排除に成功し、感染例はすべて海外株(海外から持ち込まれたもの)によるものです。インフルエンザ菌は鼻腔などに常在する菌ですが、ヒブワクチンにより10万人あたりの重症患者の人数が2015年には0.0人になり、髄膜炎の患者が大幅に減少しました。
水痘も妊娠初期には手足の奇形の原因となったり、周産期の感染では新生児の重篤な感染症を引き起こしたりしますが、定期接種により2014年には患者数が1/5まで減りいわゆる流行がなくなったといいます。
ワクチンで流行が押さえられないケースもあります。肺炎球菌は91種類もあり、ペニシリンに耐性をもち重症化しやすい株について7価のワクチン(7種類の株についてのワクチン)として導入されましたが、別の肺炎球菌が増えてきたため13価のワクチンに切り替わりました。するとまた別の血清型に置換が起こり感染を減らすことができない状況です。
また、前述の水痘は帯状疱疹の原因ウィルスでもありますが、ワクチンで患者数そのものが減りウィルスへの曝露が減った結果、成人の抗体価が経時的な減少によって高齢者の帯状疱疹が増えたとの報告もあります。
効果が長続きしないワクチンとして百日咳(Tdap:破傷風、ジフテリア、百日咳の3種混合ワクチン)があります。その効果は2~3年ですが、生後2か月以内に感染すると百日咳は致死率が高く、抗生剤も感染予防にしか効果がないことから、妊娠中に接種することで母体からの移行抗体により予防するようになりました。
今後の課題としてはRSウィルスやB群レンサ球菌へのワクチンが望まれます。
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症は子宮頸がんの発症と関連することから、日本小児科学会ではワクチン接種を積極的に推奨しています。
科学的には副反応とワクチン接種の因果関係は否定されています。
日本では反対派により訴訟になっているが、英国保健省の幹部は反対派と組することは彼らを肯定することになるから相手にしてはならないというコメントや米国では『ワクチンは「ワクチン接種は子どもによくない」という非常識な親を常識化するために打つのだよ』というジョークなどを紹介し、日本のワクチン行政の遅れを嘆いていました。
海外ではVIS(何の略称かメモ取れませんでした)という予防接種教育が行われており、日本小児科学会でも日本版VISをしていこうということでした。
ワクチンが効果をあげると感染者が減ることで感染症はみえなくなり、副反応のみが目立つようになります。
まとめとして2008年以降接種可能なワクチンが増え、疫学的な変化が認められた。予防接種には教育が大切であり、効果に対する正しい理解と継続的な情報発信が必要である。海外では同時接種がスタンダード(副反応が出たとき何に対しての反応か特定できないことがデメリット)であり、接種回数の減少は接種者の負担軽減につながります。
HPVに関しては副反応とワクチン接種に因果関係がないことが科学的に証明されているということでしたが、その検証方法自体に反対派疑念をいだいていますし、いろいろな意見があるところだと思います。
次回は、“その3”として「小児ガン治療のための口腔管理」についてお伝えしていきます。
二子玉川ステーションビル矯正・歯科
髙見澤 豊