福島第一原子力発電所の事故の際には、各種報道でBq(ベクレル)やらmSv(ミリシーベルト)やらが使われ、それら単位を毎日のように耳にしていました。
放射線の被ばくについて、一時過敏だった時期もあったと思います。歯科での被ばくはどの程度なのでしょう。歯科用X線写真撮影法には、口腔内にフィルムやイメージングプレート、CDDイメージセンサーなどを入れて撮影する口内法と、口腔外にフィルムや イメージングプレート、CDDイメージセンサーなどがある口外法があります。口内法撮影法は別名デンタルともいわれます。口外法にはパノラマX線写真(パノラマ)や頭部X線規格写真(セファロ)などがあります。
欧州委員会が2004年に出したガイドライン「放射線防護–歯科X線検査の放射線防護に関するヨーロッパのガイドライン:歯科診療における安全なX線の利用のために」によると、口内法による被ばく線量は1~8.3μSv(E感度フィルム撮影時)と記載されています(下表)。イメージングプレートなどデンタルX線写真だとE感度フィルムのおよそ半分の線量で済みます。
小児では、骨が成人ほど緻密でなく厚みも薄いためX線の照射時間が2割ほど短くて済みます。
しかし、小児の幼若な組織のX線の感受性は高く、30歳を1としたとき10歳未満のリスクは3倍といわれています(下表)。ですから、小児はデジタル化や照射時間の短縮などによる被ばく量の軽減量がほぼ相殺されてしまうと考えてよいのではないでしょうか。
最後に、自然放射線やその他医療被ばくについてみてみましょう。
胃のバリウム検査やCT検査の被ばく量が大きいことがわかると思います。日本の平均自然放射線量が2.1mSv(2,100μSv)ですから、デンタルX線写真の実効線量が1~8.1μSVがいかに小さい被ばく量であるかわかると思います。
~こぼれ話~
エックス線には、癌や奇形の原因となる負の側面があることは現在では広く知られています。エックス線の有害作用については、レントゲンがエックス線を発見した半年後の1896年7月にドイツの医学雑誌に現在でいう放射線皮膚炎と考えられる異状が報告されています。当時の医師や技師は、エックス線の中に左手をかざして蛍光板への写り具合をみてエックス線の強さを調節していました。このため左手に皮膚炎や皮膚癌が多発しました。初期のエックス線研究者の多くがその犠牲となり、ラジウムの発見者キュリー夫人(Marie Curie/1867-1934)が白血病で命を落としたことはよく知られています。1936年、ドイツ・レントゲン協会は、ハンブルグにエックス線の有害作用で命を落とした欧米の医師・研究者の鎮魂碑を建立しましたが、そこにはドイツ人70名を含む15か国、150名の名前が刻まれています。放射線防護の知識、技術が確立した現在では、このような事故はもちろん皆無です。
百島祐貴著:ペニシリンはクシャミが生んだ大発見 医学おもしろ物語25話より引用
二子玉川ステーションビル矯正・歯科
小児歯科担当 髙見澤 豊